「三河屋の親仁が目を凝らして、生娘の股をこうやって、一人一人丹念に調べる」
「……」
「羨ましいのう」
と、吉井はゆったりと首を振る。
「だったら、商売替えでもしたらどうだ?」
と、重太郎は突っ込んだ。
「ははっ。それは良いかもしれん」
「旦那、どうぞ」
と、下男の呉作が吉井に茶を持って来た。
「おお、済まんな……しかし、出替わりの時機を過ぎたばかりだから、良い娘など早々には見つからんだろう?」
「まあな。取り敢えず今日は、長助を家に置いてきた」
「池田様、使いが来てますよ」
と、呉作が戸口の方を指差した。
見てみると、辰吉が立っていた。ほっと安堵の表情をしているのを、重太郎は手招きして呼び寄せた。
「話の途中に済みません。例の件なんですが……」
「漸く出番か?」
「へい。今し方、奴が寝床に帰って来やした」
「おっ、例の貸本屋の件か?」
と、吉井が茶々を入れて来たが、
「ああ……」
と、重太郎は生返事で相手にせず、
「もう引っ張ったのか?」
「いえ、まだです。内の親分は旦那に足を運んで頂きたいと」
「分かった……悪いが二人共、口書は後回しだ」
と、重太郎は少し離れて立っている左平次と伝蔵に声を掛けた。
「相済みません」
と、辰吉が二人に深々と頭を下げたが……左平次は手を振ってそれを遮った。
「おお、気にするな。いいってことよ。それより旦那、自分達もお供してもいいですかね?」
「よし! 俺も付いて行くとするか」
と、吉井が膝に手を当てて、立つ素振りを見せた。
「馬鹿言え。町廻りが二人も行ったら、何事かと勘違いされるわ!」
重太郎は吉井を制して、自分だけ立ち上がった。
「連れて行くのはお前達二人だけだ。手下は置いていけよ」
「へい」
と、左平次と伝蔵はにんまり顔。
吉井は詰まらなそうに苦虫を噛み潰していた。
「おい、行くぞ」
と、重太郎は自分の供回りである小者の次郎と中間の卯助に声を掛けた。
上がり框に腰掛けたままの吉井が、
「まあいい。後でじっくりお拝ませてくれよ」
と、楽しそうに宣(のたま)った。
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